年末になってくると、問題を次の年に持ち越したくない、新年を迎える前に済ませてしまおうという気持ちが出てくるものだ。
個人的には、知らない誰かが決めた暦というものに従って全員が動く、というのに心の奥底では疑念を感じている。
が、私1人自分の都合の良い暦を設定して暮らすなどという大胆なことが出来るはずもなく、結局は年の瀬を迎えるにあたって、今年の汚れは今年のうちにと思ってしまうのだ。
そういう意味で、気になって仕方ないというほどではないけれど、数日に一回くらいは思い出すことをやっと片付けられた。
大体3ヶ月くらい前だったか、お客さん(私は飲食店をやっている)からあるものを頂いた。
それは1000円のQUOカードで、芝生の写真の上に「なんとかカントリークラブ ホールインワン記念 ◯◯様」と書いてある。
ゴルフに何の興味も無い私は、そのQUOカードがどういった意味を持つのか、何故にそのようなものが発行されるのかさっぱりわからないが、しめしめ1000円貰ったぜ、と貧乏人根性丸出しでほくそ笑んでいた。
次にコンビニエンスストアに行った時に使ってやろうと思い、何気なく裏側を見たら使えないものとして、タバコ、公共料金などと記してあるではないか。
私が数日に一度コンビニエンスに行くのは、大抵タバコやら公共料金などを支払う時だ。
ということはQUOカードを使うには、生クリームがたっぷり入ったパンを持ってレジに行き、
「パンはQUOカードで、あと140番のタバコは現金で払います」
なんて言わなければならないのか。
ダメだ、そんなことはできぬ。
私は自分も客商売をやっている身として、できるだけ店員さんに面倒な作業をさせないというのを矜持として生きているのだ。
それに昔コンビニのバイトをしていたこともあり、面倒な客をたくさん見てきたので、せめて自分はストレスをかけないスマートな客でいようと決心したのだ。
理想は、生クリームがたっぷり入ったパンを持っていき、店員さんがバーコードを読み取った瞬間に123円を置いて、パンを袋に入れる暇も与えず鷲掴みにして早足で立ち去る、という感じ。
それなのに、たかだかパンとタバコを別会計でなんて有り得ない。
ひょっとしたら、現在のレジスターは私がバイトしていた頃より格段に賢くなっていてQUOカードを差し込むだけで、ダメなものと分けて会計してくれるのかもしれない。
ちょっと検索して調べてみようかとも思ったが、何というかそれをやったら負けのような気がして出来ない。
何に負けるのかといえば、ゴルフにだ。
今まで私はずっとゴルフを否定して生きてきた。
のに、ゴルフから生まれ出たQUOカードのことを必死になって調べるなんて、それはもうゴルフについて必死に調べているも同然で、ゴルフ側に完全に上に立たれてしまうことを意味する。
そもそも、ゴルフ側からの賄賂ともとれるQUOカードを受け取って喜んでる時点で、上に立たれていると言えるのだが、そこは貧乏人根性ということで敢然と無視する。
という風に調べることもままならないのだが、かといって買いたくもないものを無理してQUOカードで買うのもおかしい。
どうしたものかと、思い悩んでるうちに使うに使えず3ヶ月も経ってしまった。
財布を開けるたびに、芝生が太陽の光で輝いている写真がチラチラ見えて嫌な気分になる。
そう、使えないでいるうちに私の中でQUOカードは、完全なる厄介者になってしまったのだ。
ちきしょうめ、だからゴルフは嫌なんだとゴルフに対する否定も更に高まってしまう。
厄介者に対するイライラが限界に達しようとしていた先日、遂にチャンスが訪れた。
昼飯をコンビニエンスストアで買う、と同時にタバコは必要ない状況だ。
やっと厄介者とおさらばできると嬉々としてセブンイレブンの弁当コーナーに行くが、時間が微妙だったせいでチキンカツ弁当しか残っていない。
ここはチキンカツでいくとして、今回でQUOカードを使い切るには1000円を超えなければならないので、じゃあサラダ的なものでもと思ったが売り切れ。
ならば、デザートかと思い選んだのは、新発売と書いてあった丸いチーズケーキ。
チキンカツとチーズケーキで約800円くらい。
もう1つ何か買わなければ、奴は追い払えない。
これ以上は食いたくないし、どうしようかとチキンカツとケーキを持って店内をぐるぐる回る。
その内よくわからなくなってきて早く帰りたくなり、何でもいいとレトルトの「金のカレー」を掴んでレジへ。
これでお願いします、とQUOカードを出してハッとする。
この店員さんには私のことが、ゴルフ好きのおっさんに見えてしまうのではないか。
だって、ホールインワン記念って書いてあるんだもの。
「これは貰ったものでね、私はね、別にね、ゴルフはね、好きとかじゃないんですよ」
と心の中で必死に言い訳をしながら、不足分の186円を出す。
すると女性の店員さんが、
「カードは処分しますか?」
と聞いてくる。
まさかそんなことを聞かれるとは思ってなかった私は、一瞬間を置いて「ハイ」と答えた。
が、心の中では
「しまった!あの一瞬の間で、せっかくの記念のカードを処分するかどうか迷ったゴルフ好きのおっさん、と思われてしまったかも」
と激しく後悔していた。
まあ何はともあれ、QUOカードをなんとか今年中に使えて良かったとしよう。
翌日、よくわからずに買ってしまったレトルトの「金のカレー」を食してみたが、レトルトカレーとしてはかなりの美味で、また買おうと思った。
カードをくれたお客さん、ありがとう。