先日、帰宅途中にコンビニエンスストアーに寄った。
アイスが食いたかったからだ。
ハーゲンダッツ的な。
レジのすぐ前にあるアイスコーナーに向かうべく一歩踏み出した時、会計をしている人が目に入った。
その瞬間、ハーゲンダッツ的なアイスのことで占められていた脳の回路が切り替わりフル回転する。
気づけば私は雑誌コーナーの前で物色するフリをしていた。
別に読みたい雑誌などないのに。
どうやら私の脳は判断したらしい。
アイスコーナー前のレジにいる人が中学の同級生で、接触するのは得策ではないと。
別にその同級生が嫌いとか、仲が悪いとか、過去に一悶着あったとかでは全然ない。
前にもそのコンビニエンスで偶然会ったことが数回あったし、その時は普通に当たり障りのない会話をしたりした。
がしかし、
彼の姿を認めると同時に、まるでコソ泥のように隠れているのだ。
なぜこんなことをしているのか、いまいち明確に説明できないのだが、物凄く簡単に言うとめんどくさいのだと思う。
特に興味もないことを、適当にニコニコしながら話すのが面倒なのだ。
私にはどうにも昔から人見知り的な傾向があって、あまり仲良くない人との接触を避けがちだ。
そういうのを、「シャイネス」と言うらしい。
漫画『デストロイ アンド レボリューション』に出てくる超能力の名前「ワンネス」のようで良いではないか。
「どうにも僕は人見知りで...」
と言うより、
「俺さ、シャイネスなんだよ」
の方がイケてる感じがするでしょ。
ただ、人見知りの人間があまり親しくない人に対して、自分のことを「シャイネス」などと言えるのだろうか。
「シャイネス」なんてワードをサラリと言えるようなら、人見知りになぞなってはいないのではないか、という気もする。
更に、今まで聞いたことのない「シャイネス」なんてワードはすぐに忘れてしまい、実際に人見知りをカミングアウトする場面で、
「いや〜どうにも僕はワンネスでね」
と『デストロイ アンド レボリューション』の方を口走ってしまって、超能力者だと思われてしまったりしないだろうか。
まあシャイネスのことは置いといて、問題なのはレジにいる同級生らしき人が、いつになっても帰らない。
会計を済ませたらすぐ出て行くだろう、という算段で雑誌を物色してるフリをしていたのに、完全にプランが狂ってしまった。
雑誌コーナーでいつまでもキョロキョロしているのも不自然なので、目の前にあったSPAを手に取り今度は読んでいるフリをして、チラチラとレジの様子を伺う。
早く帰ってアイスを食いたいのに、何故にこんな無意味なことをしなきゃならぬのだ、と段々イラついてくる。
長い...
私の人生の中で、こんなにコンビニエンスのレジに長時間居座ったことなどないぞ。
あまりジロジロ見てるとバレる可能性があるのでよくわからんが、おでんでも買っているのか。
でも、おでんにしても普通あんなに長くはかかるまい。
もしや、一旦詰めてもらったおでんを横にいるもう一人の男と分ける為に、
「やっぱり、ちくわと大根としらたきは別にして玉子も一個追加して」
とか言っているのではないか。
そしてやっと終わると思ったところに、
「あと、からあげ棒と142番のタバコ2つね」
なんて言い、更に
「あ、ついでだからこれも」
と言って電気料金の請求書を出しているのではないか?
と、勘ぐりたくなるほど長い。
こんなことなら、アイスを持って隣のレジに並んで「あれっ仕事帰り?」なんて言って金を払い、「じゃ、また」なんて言って颯爽と去れば良かった。
またレジのほうを見る。
居る、まだ居るよ。
あれ以上何を買うのか?
まさか、宅配で何かを送ろうとでもしてるのか。
いくらなんでも、全てをコンビニエンスに押し付けすぎだろう。
なにがどうなればあんなに長くなるのか、ハーゲンダッツ的なアイスのことなどすっかり頭から消え去り、SPAの紙面を睨みつけながら考える。
が、
わからないしどうでもいいので、SPAを閉じて棚に戻そうとした時、隣でマガジンを読んでいたスーツの人がこちらをチラチラ見てるのに気づいた。
きっと私の挙動が怪しくて、気になったのだろうと思い、すんませんと軽く会釈して雑誌コーナーを離れる。
そして陳列棚の影からレジを伺うと、同級生らしき人物は消えていた。
よし!と、喜び勇んでアイスを鷲掴みレジへ。
帰って食べている時に、自分が口にしているのが雪見だいふくだと気付く。
何故かはわからないが、長時間の潜伏の間に買わなくてはならないものが、ハーゲンダッツ的なものから雪見だいふくに変わってしまったようだ。
久しぶりに食べた雪見だいふくはとてもうまかった。