言葉の壁とか良く言うが、言葉が通じる通じないはやはり大事で、例えば、嫌われ者代表のゴキブリにしても、アイツらに言葉が通じていれば好かれるとは言わずとも、ここまで嫌悪されることもなかったのではないかと思う。
前に書いた死闘も、
言葉が通じてさえいれば、もっと穏便に済んでいたかもしれない。
まあ相手が虫という他種族なのだから、意志の疎通ができぬのも仕方ない。
が、
お互い人間同士でも、会話ができぬことがあるというのはどういう因果か。
人間の言語はあまりに多種多様で、私達日本人が話す日本語ですら、強めの方言だと何を言ってるのかわからなかったりするわけで、相手が外国人となるとそれはもう困難を極めるのは必至。
それでも人間同士なら言葉は通じなくても、ボディランゲージ的なものである程度の意志の疎通は確かに可能だ。
だが、言葉なんて関係ないさ!人類皆兄弟!みたいな恐れ知らずの勇者ならまだしも、私のような陰気で偏屈な者としては、知らない外国の人とのゼスチャーゲームなんて考えただけでも、血尿が出るくらい気まずいのだ。
まあ、公共の面前で人々の注目を集める中、外国人と熱いハグを交わしたことのある私が言っても説得力がないのだが...
ここまで内容の無い無駄話をしてきたのは、急に外国人との会話に関するエピソードを思い出したからだ。
私は、入店してきたお客様に料理や飲み物を提供する仕事をしているのだが、そこに外国人のお客様がみえた時の話だ。
アルバイトの男の子が料理の注文を聞いたところ、どうやら日本語は一切話せないらしい。
片言の英単語と例のジェスチャーゲームを駆使して苦労の末に注文を聞いてきたようなのだが、普通に鳥の唐揚げとかポテトフライという注文で何ら問題はなかった。
そして、その後追加注文を取ってきたバイト君は
「納豆1つお願いします!」
と自信満々に言い放ったのだ。
納豆を使ったメニューがあるので、それのことかと確認したら、
「納豆だけでいいんじゃないですかね。せっかく日本に来たんだから納豆食ってみたいんじゃないですか」
と、いかにもそれらしいことを言う。自信満々で。
私は一抹の不安を覚えながらも、バイト君の自信満々さに押し切られる形で、納豆を皿に盛って出した。
が、やはりというか何というか、バイト君は納豆の乗った皿をそのまま持ち帰ってきたのだ。
どうしたん?と私が聞くと、
「これ持っていったら、鼻をつまんで、NO〜!って言われちゃいました」
と、ガックリ肩を落とすバイト氏。
外国の人も頼んでもない、臭くて糸を引いた豆がいきなり出てきて何事かと思ったことだろう。
日本人は臭い豆を無理矢理食わせるのか、と。
要領を得ないバイト氏に代わって、仕方なく私自らが聞きに行く。
当然私とて、英語が話せる訳じゃなく見ず知らずの外国人と無様さを晒してまで、コミュニケーションを取るなんていうのは本意ではない。
が、
これは仕事なのだ。と決死の覚悟を決めて外国人夫婦の前に参上した。
なんのことはない、外国人夫婦は焼きそばが食いたかったのだ。
「 ヌードル」「Fried noodles」
と幸いにも聞き取れたので、オッケー、オッケーなんて言いながら、すぐ戻って作った。
そしてそのお客様が帰った後、何がどうなれば焼きそばと納豆を間違えるのか、バイト氏に詳しく聞いてみた。
驚愕の返答だった。
「ヌードル」を外国の人が言うと、
「ヌゥードゥル」という感じだと思うが、
「ヌゥードゥル」の「ドゥ」が、彼には聞こえづらかったようで、その結果「ドゥ」が抜けて、
「ヌール」
と聞こえたらしい。
まあ、ここまではしょうがない。
何度も何度も「ヌール」と言われた彼の脳内では、
「ヌール」「ヌール」→「ヌール ヌール」→「ヌルヌル」→「ヌルヌルしたもの」→「あっ!そうか納豆か!」
という風に、ヌルヌルしてるものと言えば納豆だと結論を出したのだ。
一応彼を擁護すると、彼は彼で慣れない外国人相手に一生懸命やろうとするあまり、完全に頭がおかしくなってしまったのだろう。
そうでなければ、いくら「ヌール」と聞こえたとはいえ、それを日本語の「ぬるぬる」とは思わない、思う訳ないのだ。
だって自分で言ってたじゃん、日本語はまるっきり話せないみたいだって。
千歩くらい譲って、その外国の人が唯一知っている日本語が「ぬるぬる」だったとして、何故ぬるぬるイコール納豆になるのだろう。
まあ色々謎なのだけど、それ以来私の中では焼きそばと納豆は同じカテゴリーに分類されてしまっている。