カマドウマとのタイマン勝負 第2ラウンド

 

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第1ラウンドは完敗だった。

 

正直ゴングに救われたと言っていいだろう。

何せ失禁寸前にまで追い込まれたのだから。

 

ラウンド間のインターバルで、さっきまでの阿鼻叫喚の地獄絵図が嘘のように室内は静まり返っている。

 

奴は壁を背にしたポジションを取り、こちらの様子を伺っている。

 

またもや無言の睨み合いが続く。

 

私は視線で奴を制しながら必死に考える。

あのジャンプは予想外、そして強烈だった。

もしあれが私に向かって跳んできたらと思うと、生きた心地がしない。

下手にスプレー的なやつを使って、仕留め損なったら...

 

やばい...奴のジャンプを見せられたせいで、こちらの戦略が成り立たなくなってしまった。

 

だいたい奴の目的は何なのだ?

何故単身我が家に乗り込んできた?

なんでじっとしてる?

そもそも何という生物なのだ?

 

 

いくら考えてもわからない。

それはそうだ、奴はおそらく何も考えてないのだから。

 

私が現実逃避の為の思索に耽っている間も、奴はただ立ち尽くしている。

 

そこで閃く。

ひょっとして、音がしなければ動かないのか?

余りにもデータが乏しいので、そんなものにすがるしかないのだ。

 

音をたてずにスプレーを取ってきて、そ〜っと奴に近づき噴射、忍者か暗殺者のように。

そして一撃で決める。

できれば背後から近づきたいが、奴のポジション取りが良いせいで残念ながらそれは無理か...強烈なバネとあのポジション取りを見るに、奴は虫世界の中でもかなりの猛者なのかもしれぬ。

 

明らかにデータが不足している状態で、迂闊に動くのは危険かもしれないが、奴が仕掛けてくる気配もまるで無いし、行くしかない。

 

今度こそ音を立てないように慎重に進む。

もちろん目で奴を制しながら。

 

そして目的の棚に到着したのはいいが、奴のポジションが変わったおかげで目を離さなければスプレーを取り出せなくなってしまっている。

 

跳んできそうで、一瞬でも目を離すのはためらわれるけど、仕方ないので最短で取り出すイメージトレーニングをした上で決行する。

 

イメージトレーニング通りにサッと音をたてず扉を開け、ゴキジェットを取り出.........

 

 

無い...

 

 

無いのだ、ゴキジェットが!

 

 

あると思っていたゴキジェットは影も形もなく、そこに鎮座していたのは、キンチョールだった。

 

キンチョールかぁ。

 

いや、キンチョールが悪いわけではない。おそらくキンチョールでも最終的にはやっつけることは可能だろう。

 

ただ、ゴキジェットとは威力が違う。

 

奴が苦しみ悶えて大ジャンプを繰り返すというのを避けたいので、できれば大火力で一気に勝負を決めたいのだ。

 

混乱と落胆とが入り混じる中、とりあえずキンチョールを手に奴の元へ向かう。

 

 

 

いない...

 

 

 

ゴキジェットに続いて、あの得体の知れない生物まで消えてしまった。

 

もしかして、奴は私との実力差を感じとり、もしくは私のビビりっぷりに愛想を尽かし去ったのか。

 

否。

 

この戦いはそんなに甘くはない。

奴は壁にくっついていた。

 

またもや戦略の練り直しだ。

 

途方にくれる私の目に入ったのは、ブリキ製のゴミ箱だった。

 

こいつをかぶせて閉じ込めるというのはどうだろう。

ゴミ箱をかぶせた後、薄い板のようなものを壁に沿って差し入れるのだ。

 

ゴミ箱の径より大きい板状のものを探すのに手間取っている間に、奴は壁をノロノロと移動している。

上の方に行かれては厄介なので焦って探すが、結局レコードジャケットしか見つからないので、それとゴミ箱を手に壁に近づく。

 

私の胸の高さくらいの場所に佇む奴を改めて近くで見てみる。

 

何という恐ろしい風貌。

5秒も正視できん。それ以上見ていたら完全に気持ちが折れてしまうだろう。

 

 

超ビクビクしながら、狙いを定めてゴミ箱をかぶせる。

自然に『エンジェル伝説』の北野君のような声が出てしまう。

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なんとか第一段階クリア。

 

別に激しい運動をした訳でもないのに、私はゼーゼー言っている。

 

続いてレコードを差し込んでいく。

ゆっくり、とにかくゆっくり、自然に奴が内側に入りこむように。

 

かなりの時間をかけてゴミ箱を覆って、恐る恐るレコードを蓋にしたゴミ箱を壁から外し、軽く振ってみる。

 

 

居る、確実に中に居る、閉じ込めが成功したのだ。

 

「よし!」私は小さく言って、すぐさまゴミ箱を抱えて外に出た。

 

外は完全に明るくなっていて、少しビビる。

 

玄関を出て道路を渡ったところにある空き地まで早足で行く。

 

そしてゴミ箱を叩くように地面に置き、レコードジャケットの蓋を外す。

間髪いれず渾身の力でゴミ箱を蹴り飛ばした。

イメージとしては日向小次郎だ。

 

ガランガランとブリキのゴミ箱が転がる音が、朝の静けさの中響く。

 

 

「バカヤロー!このヤロー!ザマァ見ろバカヤロー!このヤローが!」

 

知らず知らずに叫んでいた。

 

 

 

夕方空き地に見に行ったが、奴の姿は見当たらない。

 

あいつも家に帰ったのだろうと思いながら、ゴミ箱を拾って帰った。

 

 

おわり