古き良きレンタルビデオ屋

DVD、Blu-rayなどのレンタルといえば、TSUTAYAとかGEOなどだろうし、今やストリーミング配信で家から出ずに映画やドラマ、アニメが観れる。

 

私もいつのまにか、レンタル店に行かなくなってしまった。

dアニメとamazonのprimeで足りてしまっている。

 

だが思えば、私が大学生の頃はまだ個人店のレンタルビデオ屋が沢山あった。

 

今では考えられないだろうが、ビデオ一本一泊二日で500円だったりした。

 

 

当時、私は2つのレンタルビデオ屋でアルバイトをしたことがある。

 

1つは小さい店で一人で店番をしていた。

一人なので、本を読んだり、友達が遊びに来たり、安くビデオを借りられるし、楽で楽しいバイトだった。

 

 

もうひとつの方はかなり忙しい店だったのだが、その理由はアダルトビデオがメインだったからだ。

 

売り上げの8割ほどはAVで、あとは新作のハリウッド映画とVシネマがちょろちょろでるくらい。

 

そんな店でも入ってすぐは普通のビデオのコーナーで、奥へ進むとアダルトコーナーだった。

 

ので、入店してみてお客さんがゼロでも奥へ歩みを進めるとそこには血走った目をした男達が通勤ラッシュ時の埼京線の如くギュウギュウ詰めになって、アダルトビデオがずらりと並んだ棚を睨みつけているという光景が広がっていた。

 

 

よくある話として、映画とAVを一緒に持っていってカウンターで映画を上にして会計をする、みたいなのがあったけど、その店においてはそんなのはおとぎ話のようだった。

 

4.5本は当たり前、なかには制限ギリギリの10本いっぺんに借りていく強者もそこそこ。

 

 

1泊2日、1本500円ですよ。

 

 

さすがに全部1日で観てはいないとは思う。

おそらくダビングしていたのだろう。

 

ヘビーユーザーは毎回大量に借りていくので、訳がわからなくなるのだろう。

「これ前に借りたことあるか調べてくれる?」というのも頻繁だった。

 

それに、常連さんにだけダビングしてあげるサービスもやっていた。

 

ダビング用デッキは基本的にはフル稼動していたが、依頼がない時は私達バイトが個人的にダビングしていいことになっていたので、数少ないチャンスを逃さないために常に空のビデオテープを準備してスタンバイしていた覚えがある。

もちろんAVのために。

 

 

そして、この店には暴力団関係者の方々が良くおみえになった。

 

暴力団関係者の方々は、会員証なぞ当然持ってこない。

 

それ故バイトの新人がまず必死になってやる事は、暴力団関係者の方々の顔と名前を覚える事なのだ。

 

レジスターの横に数十枚の会員証が貼ってあり、それは全て暴力団関係者の方々の物で、来店された際にはあの人は○○さんと瞬時に判断して、壁の会員証を光の速さでスキャンしなくてはならぬ。

 

少しでもモタモタしようものなら、

「早くしろ‼︎」と怒鳴りつけられるのは必至。

 

新人の頃は今日はヤクザが来ませんようにと祈っていたものだ。

 

暴力団関係者の方々は、いっぺんに借りれる制限を軽く超えた20本とか平気で借りていく。

 

そしてそれらがいつ返却されるのかは、神のみぞ知る。

二週間後の時もあれば、三ヶ月後のこともあるが、もちろん延滞金なぞ払わない。

 

人気のビデオが長期間返ってこないのは大損害。

ここで、先に登場したダビング用デッキの出番なのだ。

人気のもの、もしくは暴力団関係者の方々が借りていきそうなものをダビングしておいて、ダビングした方を貸し出すのである、格安で。

 

店の損害を最小限にとどめられ、ヤクザも格安で借りれる、正にウィンウィン。

 

 

そんな暴力団関係者の方々が借りていくのは、基本AV、Vシネマ、たまにハリウッド超大作みたいな感じだった。

 

バイトに慣れてくるとヤクザともある程度顔見知りになって、おすすめを聞かれて答えたり、

「○○さんしばらく来てないですけど、お元気ですか?」

なんて訊いてみたら、

「逮捕されたよ」

と笑えない返答をされたり、中々貴重な経験だった。

 

その店では、古い映画のビデオなどは入れ替えの時に言えば貰えたのだが、格安だったか、無料だったかは忘れてしまったけど。

 

 

ある時、同じくアルバイトをしていた友人が、あの名作『男と女』のビデオを貰えることになったと言って喜んでいた。

 

あの店で『男と女』を借りる人間などほとんどいなかっただろうから、とてもきれいな状態だったと思う。

 

しばらく経ったある時、私は何気なく「そういえばもう『男と女』貰ったの?」と訊いてみた。

 

すると友人は言った。

2週間くらい前いつものようにヤクザが来て少し話をしていたら、

「今日はなんかいい映画が観てえんだけど、ニイちゃんのおすすめ教えてくれよ」

って言われたから、これはいいですよって『男と女』貸しちゃったんだ。

と。

 

私は「それ返ってこないでしょ」と言う。

 

友人「いや、後で感想言うからって言ってたし」

 

 

私の予想通り、一本しかない『男と女』は二度と戻ってくることはなく、友人は感想を聞くこともビデオを手に入れることもできなかった。